3人が本棚に入れています
本棚に追加
私が初めてサイトウ君を見たのは、アルバイト先のコンビニだった。近くの高校の学生であるサイトウ君は、友人達に囲まれていたり、たまに女の子と二人で来たりもする。そして皆が「サイトウ」「サイトウ」と声を掛ける。そう、サイトウ君は人気者なのだ。特に目立ったルックスでは無いけれど、いつも穏やかで、笑顔を絶やさない。そんな姿を見ている内に私はサイトウ君から目が離せなくなってしまった。
サイトウ君は、いつも17時頃店に来るので、店長に頼んで私のシフトを16時からにして貰った。これで平日の出勤日には必ずサイトウ君に会える。
仕事のモチベーションも上がるというものだ。
私は、五年前に大学を卒業し、そのあと保険会社に就職した。けれど、その会社のあまりのブラックさに嫌気が差し、三年で退職した。そのあと色んなアルバイトをしたが、最終的にこのコンビニに落ち着いた。
そのコンビニバイトにも少しダレてきた頃、サイトウ君に出会ったのだ。
毎日、16時50分くらいから、ソワソワしてしまう。今日は誰と来るんだろうか。彼女はいるのかな?
私が勝手に想いを寄せて1ヶ月程が過ぎた頃だった。
夏休みに入り、サイトウ君は17時ではなく、部活帰りの13時にコンビニに寄るようになった。もちろん店長に頼んでシフト時間は変更して貰った。
私は部活のジャージ姿に見とれてしまい「部活、頑張ってるんだね」と思わず声を掛けてしまった。
サイトウ君は、驚いたような顔で私を見、困ったように笑った。
照れてるのかな?私は、少し甘酸っぱい気持ちでレジを打ち「ありがとうございました」とサイトウ君に笑いかけた。
その日以来、何故かサイトウ君は店に来なくなってしまった。
何か悪いことをしただろうか?私は思いを巡らせたけれど、どうしても分からなかった。
夏休みが終わりかけのある日。たまにサイトウ君と二人で来ていた女の子が店に入ってきた。
「あの」
その女の子はレジに立っていた私に声をかけてきた。幸い他に客は居ない。
「はい、なんでしょうか」私は笑顔で彼女に向き合った。大きな二重が印象的な女の子だ。
「サイトウ君のことジロジロ見るのやめてあげて貰えませんか?サイトウ君が来るのに合わせてバイトに入ってるのも知ってるんですよ」
「え……」
突然のことに私はパニックになる。そんなにジロジロ見ていただろうか?無意識にやってしまってたんだろうか?
「サイトウ君、コンビニ行くの怖いって言ってます」
「ごめんなさい」
私は項垂れた。いつの間にかサイトウ君を怖がらせていたなんて。
彼女はそれだけ言うと店を出ていった。残された私は(もう、このバイトも終わりかな)とぼんやり考える。
バイトを終えて店を出ると、アイツが立っていた。私の終わる時間に合わせていつも立っている。ただの中年男のアイツは、ジロジロと私を見るだけだったけれど、私がチラリと見るとゆっくりと近づいて声を掛けてきた……。
終
最初のコメントを投稿しよう!