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松永は一命を取り留めた。
しかし、意識が戻らないという。
本当なら私が負傷していたはずなのに、代わりに傷を負わせてしまったことが居た堪れない。できるのなら今すぐにでも代わりたい、松永を解放してやりたい…。
何度も病院に足を運んだが──。
「ご家族以外の方は面会できません」
門前払いにあい、未だに命の恩人に言葉を掛けることすら出来ない。
家族でない愛子は、付きっきりだというのに?
事故を機に、映画の撮影もストップしている。
他にも仕事はあったが、とてもじゃないが引き受ける気にはならなかったんだ。
きっと松永なら叱責するだろうが、その松永は目を覚まさない…。
「このまま意識が戻らなかったら、どうしよう」
涙目で問いかけてくる琴葉を、強く抱きしめた。
愛子は松永のことしか頭にないようで、この子のことは放ったらかし。
側について面倒を見ることが、せめてもの償い。
「そんなことはないわ、絶対に」
それは、自分に言い聞かせているようでもあり…。
「あの人にパパを取られるのは嫌っ」
「大丈夫。きっと目を覚ますから。そうしたらここに戻ってくるはず」
「本当?」
純粋な目で問いかけられ、しっかりと頷く。
そうあって欲しいと願いながら…。
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