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「あんたのせいよっ!」
嬉々とした表情で、愛子が平手打ちしてくる。
これで何度目だろう?
その後にわざとNGを出し、私を痛めつけて楽しんでいるんだ。
「ごめんなさい、休憩しましょうか?」
頭がクラクラするが、この女に負けたくはない。
「…大丈夫です」
きっとまた殴った後に白々しくセリフを噛むだろう。
でも、愛子は気づいていない。
私を痛めつけるのに夢中で、周りから白い目で見られていることに。
これまで様々な嫌がらせも、周りのスタッフたちの優しさで切り抜けることができた。それは裏を返せば、愛子が嫌われているという証。
大女優の仮面に小さな亀裂が入り、そしてそれは修復できない『傷』となる──。
「松永さんとは、順調ですか?」
その後、愛子の楽屋を訪ねた。
「私は何も言ってないから、安心して。オーディションで落とされそうになったことも、監督と不倫関係であることも言ってない。どうせあなたはシラを切るだろうし、私も告げ口みたいなことはしたくない。ううん、しなくてもいい」
「…何が言いたいわけ?」
「そんなことを言わなくても、あなたには負けないから」
「涼真が、あんたに靡(なび)くとでも?」
「私に靡くんじゃなく、そろそろ気づき始めてるんじゃ?」
そう、仮面が剥がれ始めているんだ。
「──九条愛子の本性に」
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