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「ワインでいいか?飲める口なんだろ?」
「じゃ、乾杯だけ」
そう言ってメニューを開くが、なんだか落ち着かない。
「あの、やっぱり二人きりで食事は…」
「気にしなくていい。ここは俺の知り合いがやってる創作フレンチだ。俺たちのことが噂になることはないよ」
「確かに個室ですけど、でも万が一ってことも」
「もしかして、愛子のことを気にしてるのか?」
「それは…」
「それなら心配ない。愛子とはもう別れた」
「えっ?」
「俺たちはもう付き合ってない。これでいいか?」
尋ねておきながら答えを待っていない様子で、料理を注文していく。
ようやく言葉が出てきたのは「乾杯」の声だ。
別れたというのなら今頃、愛子は嫉妬に狂っているのか?
考えることが多すぎて、ワインの味が分からない。
「俺は愛子を…九条愛子という女優をリスペクトしてきた。子役から脱皮するのは生半可なことじゃないし、ある程度の性格のきつさがないとあそこまでは上がれない。実際に共演してみて惹かれたのも事実だ」
「それじゃ…どうして?」
「一つは、愛子が信用できなくなった。芝居に関しても、俺が勝手に思い込んでいただけかもしれない。でも、一番の理由は…俺の前にAYANOが現れたからだ」
「──私?」
「そうだ。俺は、彩乃に惚れてしまった」
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