【復讐をやめる決意】

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目には見えない思いが、言葉を通して形となる。 時が止まったように、松永と見つめ合っていた。 このままじゃ、息ができないと思うくらいの特別な瞬間。 「──前菜でございます」 ようやく、止めていた息を吐く。 時間に突き動かされるよう、フォークを手にしたがまだ食べる気が起きない。 そしてそれは、松永も同じようで。 「俺は彩乃が好きだ。そして多分、君も俺のことを…自惚れじゃないと願いたい」 告白の行方がどう着地するのか、ちゃんと見届けてからじゃないと、箸は進まないということ。 スクリーンで観ていた松永涼真は、いつもクールでストイック、役者魂が凄まじい売れっ子俳優。でも本当は娘思いで人間味に溢れている、気のいい男。 今もナプキンで手のひらを拭ったのは、緊張で汗をかいているからだ。 そんな松永に真っ向から告白されたのだから、私もその気持ちに応えたい…。 「私は九条愛子に復讐するために、あなたに近づいた」 「…そうか」 「どうしてもあの女が許せなかった。私から大切なものを奪ったように、今度はあの女の大切なものを奪い取ってやりたくて…それで家政婦になったの」 正直に打ち明けると、松永が前菜を食べ始める。 幻滅されてもいい、軽蔑されてもいい、ただ一つだけ、一つだけ…。 「でもいつからか、あなたのことを…」
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