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黙々と前菜を口に運ぶ松永は、何を考えているのか?
腹を立てているのか?だから無言なのか?
気持ちを踏み躙られたと?
居た堪れない気持ちで目を伏せていると、松永が水を一気に飲み干す。
そして、にんまりと笑った。
「それじゃ、彩乃の目的は果たせたってことだな」
「えっ?」
「俺は九条愛子を捨てて、君に告白した。どんな理由だろうと、たとえ騙されたとしても、俺が彩乃を好きになったことには変わりはない」
「騙すなんてそんな…」
「でも、家政婦の演技をしてたわけだろ?俺はまんまとその演技力に騙された。まぁ、そこに惚れたんだから仕方ないけどな。ほら、せっかくだから食べないと。ここ、マジで美味いんだよ」
そうか、だから無言だったのか。
おしゃれな前菜に手をつけると、その言葉通りの味だった。
それからは料理を堪能し、芝居の話に花を咲かせる。
互いの気持ちを確認し合った、居心地の良さを感じながら──。
「俺は二人の間に何があったか知らない。彩乃がそこまでするっていうことは、相当なことなんだろう。でも、これで終わりにしないか?」
そう切り出したのは、デザートが運ばれたきた時だった。
「もう復讐に囚われるな。これからは光輝のためにも、前を向いていこう」
私の手を握る松永は、やっぱり手汗をかいていたんだ。
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