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家に帰ってくると、光輝はすでに深く眠っていた。
いつになっても、その胸が上下していることが感慨深い。
「この子のために…」
それは『松永と一緒に』という意味だ。
光輝はとても慕っているし、琴葉ともうまくいくだろう。
温かい家庭を築けるはず。
そしてそれは、九条愛子には手に入れることができないもの。
あの女のせいで、夫は死んだ。
人を人とも思ってない所業に、復讐を決意して近づく。同じ目か、それ以上の地獄を味あわせてやろうと…でも、ゴールはなんだ?あの女を殺すこと?
『もう復讐に囚われるな』
松永の言葉が、私の憎しみを打ち消していく。
やり返すだけが、復讐の形ではないのかもしれない。
私自身の幸せを突き詰め、九条愛子のことを忘れることこそが、最も大きな仕返しなんじゃないか?
きっと、修平もそれを望んでいるんじゃ?
まだ夫のことを愛しているが、その気持ちを抱えたまま、失くしたものを胸に抱きつつ、前を向いて生きる。
新しい幸せと共に…。
光輝の健やかな寝顔を眺めていた私は、決めた。
復讐を、やめることを。
松永の言う通り、いつまでもこだわっていては前に進まない。
沼に足を取られて、結局はあの女と同じ土俵で燻っているだけ。
そこから這い出し、進むことこそが幸せへの第一歩なんだ。
愛子をその沼に置き去りにして…。
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