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「調子はどうだ?」
撮影現場にやってきた松永は、スタッフたちに差し入れを持ってきてくれた。
ちょうど休憩を挟むことになり、セットを眺めながら向かい合う。
「この間の話だけど…」
「この間?」
「そう、あなたが復讐に囚われるなって言ってくれたこと、よく考えてみたの」
「うん」と、急かすことなく待っていてくれる。
「私…復讐はやめることにしたわ。光輝のためにも、これからは前を向いていく」
「光輝のためだけ?俺は?俺俺」
戯(おど)けたように自分を指差す松永に、笑ってしまう。
「あなたのためにも…そうね、もう復讐はやめる」
「良かった」
そっと抱きしめられ、大きな胸に包み込まれる。
あぁ、これが幸せなんだ。
復讐より何倍も意義のある、幸福というもの…。
「松永さん、ちょっといいですか?」
顔馴染みの助監督に呼ばれた松永が、名残惜しそうに離れていく。
今はもう、私の頭に愛子の『あ』の字もない。
つまり、復讐は成功したということ──。
なにやら話し込んでいる松永を見つめているだけで、胸が熱くなる。
ふと私の視線に気づき、軽く手を上げた。
「──彩乃っ!」
「えっ?」
怒ったように名前を呼ばれ、稲妻が体を貫いたような痺れが走る。
一体、どうしたのか?
なにをそんなに慌てて、駆け寄ってくるの?
しかし次の瞬間、大きな衝撃を受けて倒れ込む。
何が起きたのか?
何が起きてしまったのか…?
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