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照明や機材が、彩乃のもとに降り注ぐ。
息を詰めてその様子を見ていた私は、すぐさまその場を離れた。
だから知らなかったんだ、まさか涼真が身代わりになったなんて…。
「松永さん!」
怪我一つしていない彩乃が、瓦礫に向かって泣き叫ぶ。
「うそっ…」
思わず声を漏らした私が罪悪感を感じたのは、ほんの一瞬。
邪魔な彩乃のことを突き飛ばし「涼真、涼真っ!」と名を呼んだ。
世間では、まだ私と涼真は恋人同士だと思われている。
まさか振られたなんてこと、口が裂けても言えない。
だから病院に付き添うのも、私だという暗黙の了解があった。
「しっかりして、私がついてるから!」
手を握って言葉をかけ続けていると、不思議なことに『別れた』という事実が薄らいでいく。あれは幻で、今もまだ私たちは熱く結ばれているのだと。
「先生、涼真を助けて下さい!」
医師の足元に縋ると、大袈裟な演技と現実の境目が分からなくなって、自然と涙が溢れてきた。
こうなったのは、私のせいだというのに…。
それどころか、意識が戻らないと分かると怒りが込み上げてきたんだ。
廊下の片隅に佇んでいた彩乃に、つかつかと歩み寄る。
「あんたのせいよっ!」
それだけ言うと、平手打ちしてやった。
彩乃が、その場に崩れ落ちていく。
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