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VIP御用達の病院を手配し、手厚く世話をする。
とはいっても、私が看護するわけじゃない。
金さえ払えば、大抵のことは手を汚す必要はなかった。
私は生まれながらの女優なのだから、下の世話などは看護師に任せておく。そのための馬鹿高い入院費なのだから。
「調子はどう?」
医師からは、声を掛け続けるように言われている。
しかしその一言だけで、あとは延々とエゴサーチに励む。
『九条愛子は情に厚い』『あの会見で惚れた』『早く元気になって結ばれて欲しい』『これは誰も文句がないビックカップル!』『また共演が観たい!』
「フフっ」
口元が綻んでしまう。
仕事をセーブして病室に泊まり込むのも、世間に対して『甲斐甲斐しく面倒を見ている』というアプローチだ。今のところ成功しているようで──。
「パパっ!」
手洗いから戻ると、琴葉が松永を揺さぶっていた。
「お願いだから目を覚まして!また彩乃さんと光輝の四人で一緒に…」
「やめなさい!」
急いで娘を引き剥がす。
「お父さんを殺す気?」
「でもっ…!」
「心拍数が乱れてるじゃないの!その名前は聞きたくない証拠なのよ。一人じゃ何もできない小娘のくせに。いい?余計なことをするならもう会わせないから」
おとなしく啜り泣いている琴葉を見て、胸がすく思いだった。
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