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「あのっ、本当にいいんですか?」
典子が何度も何度も繰り返し尋ねてくるので、いい加減うんざりする。
「いいって言ってるでしょ!?」
それでも声を抑えたのは、ここが病院だからだ。
「次また同じことを訊いたらクビよ?これは九条愛子がさらに飛躍するためなの、分かった?」
頭からねじ伏せてやったが、典子は返事をしない。
黙って廊下に出て行き、やがてスーツ姿の女性を伴って戻ってきた。
緊張した様子で広い病室を見回すのは、フリーアナウンサーだ。
これまで何度も独占インタビュアーの依頼があったが、ゴールデンタイムのニュース番組なら効果は絶大だろう。
神妙な面持ちで、カメラに向かって切り出す。
「未だに皆さまから、多くの心配の声が寄せられていて…彼自身もこの状況を伝えることを望んでいると思うんです。これがいい刺激になって、目を覚ましてくれるかもしれない」
一抹の期待を込めて、まずは1日のルーティンを紹介する。
「毎朝、必ずおはようと声を掛けています。声は届いているから、彼の映画を流したり、いろんな思い出話をしたり」
眠っている涼真の腕を摩りながら、それからもインタビューに答えていく。
そして最後に、打ち合わせした通りの質問が来た。
「もしこのまま、目を覚まさなかったら?」
わざと虚をつかれた風を装い、すぐに笑顔を取り繕う。
「それでも支えていきたいと思います」
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