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「みなさんにお知らせがあります。突然ですが、来年の春に、みなさんの学校が廃校になると決まりました。そのため、みなさんが倉間小学校の最後の卒業生になります」
正道先生の発言にクラス中がざわめいた。
「先生、あまりに突然すぎじゃないですか?」
学級委員の日吉くんがまっさきに手を挙げる。眼鏡をくいっと上げ、机をバンっと叩く勢いで立ち上がる。
「ぼくたちの下の学年の子は? ぼくたちは卒業できても、五年生より下の子たちはどうなるんですか?」
「みなさんより下級生さんたちは、来年の春から隣町の小学校に編入することになります。だから安心してください」
「安心って……いくらなんでも急すぎます。ぼくたちの親には説明してあるんですか?」
「それはおって校長から説明会を開く予定です」
「ぼくたちよりも先に家族に説明すべきです。みんながみんな、同じ中学校に行くわけじゃないし。そうだよね、七見さん」
「え、わたし?」
わたし――七見春花は日吉くんから声をかけられて、ガタっと椅子を鳴らした。
わたしも日吉くんと同じ学級委員だけど、みんなのまとめ役の日吉くんと比べると、地味で平凡なただの女。ほかにやる子がいなかったから、四年生のころからずっと学級委員をやっている。
まとめ役とか、そういうの向いていないことは、自分が一番わかっている。なのに日吉くんはわたしを指名した。
「七見さん? たしかきみは私立の中学校に行くって」
あ、そうだった。だから日吉くんは、わたしの進学について考えてくれていたのかな。もちろんわたしだけじゃないだろうけど。
「そうです。わたしはみんなと違う中学校に行くことになったんです。ながれで言っちゃってすみません。でも確かに日吉くんの言うとおりだと思います。ただ、このあたりのことは、わたしたちじゃなくて、PTAで話すことだと思うので」
「うん、七見さんの言うとおりです。先生たちの連携がうまくいかなくてすみません」
「いや、先生が悪いわけじゃないですよ」
日吉くんがフォローする。わたしたち六年一組はめちゃくちゃ仲がいいわけではない。一学年に十人もいないから、毎年クラス替えがなく、六年間も一緒だと良い面も悪い面も見えてくる。
わたしと日吉くん以外の七人も、ただただあきれていたり、隣同士でちょっかいをかけあったり――とにかくクラスとして良いクラスとはいえないと思う。ただ、この疑似家族みたいな関係性もあと数か月の付き合いだと思うと、少し寂しい気もする。
――七人。わたしと日吉くんを除いて七人。ひとり足りない。
「ん? どうしたんですか、七見さん」
「先生、お願いがあります」
わたしは席を立ち、正道先生を見つめる。クラスの空気がちょっと冷たくなった。
「先生、ミナちゃんをさがしてください」
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