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雑居ビルの間に建つ不自然なほど小綺麗な十五階建てのマンション。その前で車が停まる。
「二時間くらいしたら車回せ」
「はい」
そう声を掛けて車を降り、オフホワイトのコートの襟を正す。発進しようとした車の運転席の窓を叩くと、賢太が窓を下げた。
「何か変なところは無いか」
「血飛沫も着いてないですし、大丈夫っすよ。ま、カタギには見えねえっすけど!」
「それが一番問題だ」
鼻で笑って、マンションのエントランスに入る。カードキーでオートロックを解錠し、エレベーターに乗り込み、「6」のボタンを押す。
ふとエレベーターの鏡に映る自分の姿に思わず苦笑した。金髪のオールバック、コートの下は黒のスリーピーススーツ、黒のシャツ、黒のネクタイ。薄いグレーの黒縁のサングラス。賢太の言う通り、これであいつの前では「カタギ」と言って通しているのだ。
普通なら信じない。が、出会った頃から嘘を吐いているためか、疑われたことはない。一応俺は個人投資家兼飲食店等のオーナーということになっている。せめて、とサングラスを外し、コートの内ポケットに入れる。
六階の廊下の突き当り、角部屋の「605」の部屋番号の前で、カードキーを翳す。ロックが解除される音がし、ドアのレバーを下げ手前に引くと、玄関の電気が点いていた。
革靴を脱いでいると、廊下の奥のドアが開き、飛び出してきた人物が突進してくる。
「兄ちゃんお帰り!」
抱きつき、俺の胸に顔を埋める愛弟、流星のペールブルーの柔らかな髪を撫でた。
「ただいま、リュウ。遅くなって悪い」
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