第二話 狼煙

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「一海、俺はお前が跡目に適任だと思ってきた。が、辻倉の古株が納得しねえってのは、俺もああは言ったが同意だ。俺も本部長に就任した時、元勝海組ってだけで反発があった。親父の口添えが無きゃあ黙らせられなかった。親父の言葉を聞けねえ以上、辻倉の血を継いだ者が物言う力を持ってる」  霊安室で横たわる父の遺体、その側で泣き喚く母の姿、そして遺体を見詰め涙を堪えて拳を震わせている親父の姿が思い起こされる。  ――もう同じことは繰り返させない。 「杉内さん、流星は親父が組と関わらせないようにと俺に託した子です。流星を担ぐのは親父の意に反しています」 「そんなこたぁ頭の足りん俺でも分かってる! だがな、あいつら親子に辻倉組をどうこうさせたとあっちゃあ、俺は旭の親父に顔向けできねぇんだよ!」  俺に曲げられない信念があるように、杉内さんにも極道として通さなければならない義がある。藤本さんが流星の名を出したのも、伊玖磨が組長になった時の組のことを憂えたからだろう。  杉内さんは元の組の組長を、藤本さんは組を最も大切に思っている。俺が、流星を何より大切に想っているように。  藤本さんが小さく息を吐き、立ち上がる。そして押し黙る俺の肩を叩く。 「あいつらが狼煙を上げる前に鎮める。三十三年前を経験した俺達がやるべきことは、まずそれだろ」 「分かってます。しかし、少し時間をください。流星は自分が何者かさえ知らないんです」 「……父親が誰かさえ知らんってことか?」  杉内さんの問いに頷く。そこまで隠し通しているとは想像していなかったのか、杉内さんも困惑の表情を浮かべる。
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