第三話 一海

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第三話 一海

 流星と俺は血が繋がっていない。父親とも、母親とも、だ。  俺は辻倉組組長、辻倉一治(つじくらかずはる)の妻・乃梨子(のりこ)の連れ子だ。親父が若頭だった頃、次期組長の座を巡って当時若頭補佐だった郁次(いくじ)を推す者達との内部抗争が起こっていた。  親父と兄弟盃を交わしていた勝海(しょうかい)しょうかい組だった俺の実父・旭海舟(あさひかいしゅう)は、その抗争を止めるために奔走し、最終的に暴走した郁次派の若衆の一人に撃たれて命を落とした。  抗争は海舟の命を以って終結、辻倉一治が組長となった。そして、同時に未亡人となった乃梨子を親父は妻に迎えたのだ。勝海組の者達の組長を殺した者への復讐とその暴走に至らせた郁次への咎めを求める声は大きく、組を吸収することだけでなく、矛を収めてもらうためもあったろう。  その時、俺は四歳だった。父親の突然の死、そしてまともに泣く暇もないまま数日のうちに新しい父親に、新しい家に迎え入れられた。  そうして辻倉の子になった俺は、中学を卒業後、親父の組の構成員になった。実父がヤクザで、その上現在の父親がヤクザの組長なのだ。俺の意志や希望など初めからなく、道はただそれ一つだった。  そんなある日、親父から直接の命を受けて、親父の兄弟分でもある舎弟の藤本さんと二人きりであるマンションに向かった。親父の息子とはいえ、下っ端の俺と二人というのは今考えれば有り得ないことだ。しかし、極道のことをよく知らなかった俺は、藤本さんの立ち位置もよくわかっていなかった。
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