第十三話 初デート(?)は保護者付き(中)

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 にこりはタイミングを計っていた。  朔太郎と連絡先を交換するタイミングだ。  朔太郎と隆輝の二人が合流したら直ぐに聞こうと思っていたが、隆輝と店主の女性が親し気に話し始め、呆気に取られてタイミングを逃してしまったのだった。  パンケーキが運ばれたら、またタイミングを逃しそうな気がする。 「あのっ」  勇気を出して、切り出す。 「ラ●ンの交換しませんか?」 「え、ラ●ン……とは?」  勇気を出したのに、朔太郎はピンと来ていない様子だった。  とぼけている訳ではない。今まで使っていなかったから、本当に分かっていないのだ。  隆輝が助け舟を出す。 「無料のチャットや通話が出来るアプリだよ。スマホ持ってる人の多くが使ってる」  そう言って、自分のラ●ンのホーム画面を見せた。  朔太郎は感心して、ほーと間抜けな声を出した。  恋は盲目、痘痕もえくぼ。そんな間抜けな声もにこりは可愛いと思った。 「ダウンロード方法から教えてやってくれ」  隆輝は丸投げした。  にこりにダウンロードからアカウント設定まで教示してもらい、朔太郎のスマホはラ●ンを使える状態になった。  ここまで来れば、メッセージのやり取りの練習という体でIDを交換する流れに持ち込むのは容易い。にこりは、ID交換の方法を実践を交えて教えた。 (や、やったー!)  にこりは、ついに朔太郎と連絡先を交換する事に成功した。  そこへパンケーキが運ばれて来た。  真っ白な皿に直径二十センチ程のパンケーキが二枚。上にバター。横に生クリームとサクランボが添えられている。おまけにメープルシロップ。 「わぁ、美味しそう!」  昨今流行りのふわふわ系ではない、オールドタイプのパンケーキ。パンケーキの甘い香りと熱で溶けたバターの香りが鼻腔に広がった。  メープルシロップをたっぷりかけて、ナイフを入れる。 「あっ、写真撮るの忘れてた!」  にこりは慌ててカメラを起動して、刀傷が入ったパンケーキをいろんな角度から撮影した。  朔太郎はお構いなしに自分の分のパンケーキを頬張る。 「久々に食べましたが、やはり美味しいですね。この質量が良いんですよ、質量が」 「スイーツに質量って言うな」 「もっちりしっとり、生地が詰まってる感じです」 「まぁ、分かるけど。ガキの頃はよく食ったな、それ」 「久々にどうです? 半分食べますか?」 「いや、そんなにいらねえなぁ」 「じゃぁ……」  撮ったパンケーキの写真を加工してSNSにアップし終えたにこりが顔を上げると、朔太郎が一口大に切ったパンケーキを隆輝の口に運んでいた。  シロップが垂れない様に手を添えて、二人があーんと口を開け、パンケーキが隆輝の口に入ると閉じられた口元からフォークだけが引かれる。  にこりは固まった。 (男同士でもあーんってするの?)  二人が家族ぐるみの付き合いだと聞いていたが、それにしては仲が良過ぎる……気がする。  連絡先を交換する時とは違うドキドキを感じながら、にこりは二人に聞いた。 「朔太郎さんとサボリーマンって、お友達、ですよね?」 「友達ってより、幼馴染か?」 「うーん、何と言いますか……腐れ縁?」  首を傾げ合う二人に、謎のドキドキが治まらないにこりであった。
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