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1.遭遇
ドッペルゲンガー。
それは、自分と瓜二つの存在。
分身だとか、第二の人格だとか、物語の世界に様々な形で登場する。仮に実在していたとしても遭遇する確率は一兆分の一よりも低い。その珍しさから目を合わせた瞬間死ぬ、という物騒な設定が付与される程だ。
本の虫だった中学生までの私は、そんな都市伝説めいた事象、まず起こり得ないと思っていた。けど進学したのと同時に、今までの常識を覆す程の事件が起きてしまう。
「へえぇ、こりゃあ凄いや。本当にそっくりだね、私達」
住宅街の階段で偶然にも出くわしたその子は、目を白黒させながらそう言った。長い黒髪にピンクのカチューシャ。ひらひらとワンピースの裾を揺らす彼女の顔は、まるで鏡と向かい合ったように私とそっくりだった。
……首に残っている痣の跡の位置まで、同じだったのだ。
「まるでドッペルゲンガーみたいだね。私ここで死んじゃうのかなぁ、なあんて」
でも、明らかに違うところがあった。その人は、表情の変化が激しい。驚愕の色を見せたかと思えば、次の瞬間にはけらけらと笑っている。自分と瓜二つの人間に走り寄っては、身体を反らせながら興味津々に私を観察し始める。
私の顔って、こんな表情ができるんだ。
いつもの仏頂面からは想像できない満面の笑顔を目の当たりにして、胸の奥につんとした痛みが染み渡る。きっと私がおかしくなったのは、この時からだったかもしれない。
「ねえ、良かったらお話していかない? もう一人の私が考えてること、ちょっと気になるかも」
不意に上目遣いで顔を覗き込まれて、思わず後退ってしまう。ふわりとシャンプーの柔らかい匂いが広がった。妙に緊張したものの、相手のことをもっと知りたいという想いは自分も同じで、恐る恐る頷いた。
胸の痛みが収まらない。
心なしか息も苦しい。
私は、ドッペルゲンガーに恋をした。
自分と瓜二つのその女の子に、一目惚れしてしまったのだ。
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