3 御剣と佐々木

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3 御剣と佐々木

 佐々木の家は、奈月や御剣の家から離れていて、徒歩二十分ほどかかった。周囲の家はみんな大きく、高級住宅地と呼ばれる地域だ。高台にある佐々木の家は三階建てで、まるでお城のように豪華な家だった。 (佐々木くんって、すごいお金持ちだったんだな)  気後れしてしまって、奈月はなかなかチャイムを押せない。しばらく奈月を待っていた御剣は、門に設置された呼び鈴を押した。指が一瞬触れて、奈月はドキリとしてしまう。  スピーカーから「はい」と女性の声が聞こえてきた。 「佐々木貴秀くんのクラスメイトです。……なにしに来たって言う?」  御剣は後半、奈月に向けて小声で尋ねた。 「なにしに来たんだろう……」  悪魔に脅されて来ただけで、奈月もよくわからない。 「遊びに来ました」  御剣はスピーカーに向けて言った。 「貴秀ぼっちゃんと、お約束がありますか?」 「いいえ、ありません」 「少々お待ちくださいね」  スピーカーがプツリと切れた。 (佐々木くんと会ったって、願いごとが決まるとは思えないんだけどなあ)  奈月はジトッとスポーツバッグをにらんだ。ただイヤな思いをして終わりそうだ。 「ぼっちゃんがお会いになるそうです。玄関までおこしください」  スピーカーからさっきの女性の声がして、ウィーン、ガチャンと門から音がした。門から十メートルほど離れている玄関からも同じ音がする。 「電子ロックだ」  びっくりしている奈月にそう言って、御剣は門を開けた。高い生垣で囲われて見えなかったが、芝や木が手入れをされている庭も広い。 (佐々木くんって、顔が良くて、頭も良くて、運動もできて、お金持ちで、なんでもそろってるんだな。女子にさわがれるはずだよね。あとは、性格も良ければカンペキだったのに)  そんなことを考えながら御剣の後ろに続いて玄関に入る。 「こちらにどうぞ」  玄関で待っていたのは、エプロンをつけた六十代くらいの女性だ。この家の家政婦だろう。 「あと十分ほどで家庭教師が帰ります。それから三十分後に別の家庭教師が参りますので、その間の十五分程度、ぼっちゃんが時間を空けるそうです」 (ぼっちゃんって呼ぶんだな。家政婦さんも初めて見た)  二人は家政婦に、廊下の四人掛けのソファーをすすめられた。 (何人も家庭教師がいるのかな? すごいけど、わたしはそんなに勉強したくないな) 「そんなに勉強が好きなら、私立の小学校にすればよかったのに」  思っていたことが口に出てしまった。すると、御剣が奈月の耳に口を寄せてきた。 「それ、佐々木に言うなよ」 「それって?」 「私立のこと。あいつ、お受験に失敗したんだよ」 (ひえぇっ、そうだったんだ。よかった、教えてもらえて。佐々木くんに言ってたら、前の百倍からまれてたよ!)  奈月はドキドキしてしまった胸を両手で押さえた。 (やっぱり、おしゃべりって難しいよ。御剣くんも、そんなに頭がいいなら私立に行けばよかったのにって思ったけど、やっぱり落ちちゃったのかな。聞かないほうがいいよね)  そう考えながら御剣を見上げていると、奈月の視線に気づいた御剣が二ッと笑った。 「オレも私立に落ちた、って思ってる?」 (どうしてわかるの⁉)  奈月はあわててしまって、とにかく顔をプルプルと横に振った。 「オレは受けてないよ。勉強に目覚めたのって、中学年くらいからなんだ。佐々木に勉強を教えてたら、楽しくなってきて……」 「佐々木くんと、仲がよかったの?」  びっくりして尋ねると、御剣は視線を落として、小さく笑った。 「前はな」
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