3 御剣と佐々木

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「佐々木くんと、仲がよかったの?」  びっくりして尋ねると、御剣は視線を落として、小さく笑った。 「前はな」  御剣と佐々木の間になにがあったのか気になったが、興味で聞いてはいけない気がした。 (みんな、どうやってお話してるのかな。言っちゃいけないことがあるかもしれないって思ったら、ポンポン言葉がでなくなっちゃう)  ガチャッとドアの開く音がした方に奈月が顔を向けると、若い男性が部屋から出てくるところだった。大学生くらいだろうか、彼が家政婦の言っていた家庭教師だろう。男性がソファーの前を通りながら頭を下げたので、奈月もペコリと頭を下げた。 「どうぞ、こちらへ」  家政婦に促されて、二人は開いていたドアに向かった。  二十畳ほどあるリビングの中央にはシャンデリアが吊られていて、暖炉や絵画もある。映画で見た貴族が住んでいるリビングのようだった。  シャンデリアの下の十人掛けのテーブルに、佐々木が一人で座っていた。 「時間がないんだ、突っ立ってないで来いよ。話があるんだろ」  佐々木の声はとがっていた。その声を聞くだけで、奈月はすくんでしまいそうになる。 「行こう」  御剣に柔らかく声をかけられた。そして小さな声で、 「カボチャ、カボチャ」  と表情を変えずにくりかえした。  佐々木の顔にカボチャを重ねてみた。豪華な洋間に、カボチャ人間。  奈月から少し力が抜ける。 (カボチャ効果!) 「ボッチの和泉と不登校の御剣がそろって、なにしに来たんだよ」  御剣が奈月を見た。 (なんて言おうか、ずっと考えてたけど、結局、なんにも思いつかなかった!)  困ってしまって、奈月は顔を伏せる。 「また、だんまりかよ」  佐々木はため息をついた。 「ぼくにいじめられたって訴える気なら、ムダだから。うちの親はPTA会長だし、教育委員会にも顔がきく。しかも古くから続いている病院の院長で、この辺りでも権力があるんだからな。だいたい御剣は、なんのいやがらせなんだよ。なんとも思ってないくせに、登校を拒否しやがって。おかげで担任に呼び出されたじゃないか」  佐々木はシャーペンをカチカチとノックしている。細い芯が長く伸びて、ポトリと落ちる。それでもまだカチカチとシャーペンを押していた。次の芯が顔を出す。 「イライラしたときのくせ、変わってないな」 「はあ?」  佐々木は正面に座っている御剣をにらんだ。 「成績不振か? 寝不足か? 時間に追われているからか。オレたちが来たこともふくめて、全部がイライラの原因だろうな」 「おまえのその、なんでも知ってますって態度が一番ムカツク」  佐々木はドンと机を叩いた。 「そういう乱暴なことやめろよ。学校ではせっかく、上品なキャラを作ってるんだろ」 「キャラじゃなくて、ぼくは上品だよ」  奈月はハラハラと、隣りの御剣と、机を挟んで斜め前に座る佐々木を交互に見た。 (どうしよう、ケンカを始めちゃった) 「そういうイライラをさ、和泉みたいに当たりやすいヤツで発散するの、やめろよな」 「当たってない。クラス委員として、授業を遅らせる生徒を注意しているだけだ」  部屋には険悪な空気で満たされている。  自分のせいなのだから、なにかしなきゃと思うほど、奈月の頭は真っ白になった。 「そういえば先月、全国模試があっただろ。何位だった?」  とつぜん、御剣が話を変えた。
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