3 御剣と佐々木

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「オレはけっこう好きなんだけど、和泉ののんびりしたところ」  そう言われて、奈月は赤くなった。 (御剣くん、やさしい!)  やっぱり勇気を出して、もっと早く声をかけていればよかった。そうしたら、学校に行くのが楽しくなったかもしれないのに。 「家庭教師が来てるんだろ。詳しい話は、明日学校で話す」 「蓮、学校に来るのか?」  佐々木は目を丸くする。 「うん。おまえの成績を上げなきゃいけないし、和泉に学校に行った方がいいって言われたからさ」  御剣は奈月に顔を向けてニッと笑う。 (ちゃんと聞いてくれたんだ)  奈月の胸が、ほわんと温かくなった。 「……怒って、ないのかよ」  帰ろうと歩きかけた御剣のシャツの袖を、佐々木が軽くつまんで引きとめた。 「三年前、ぼくが急に、蓮のことをムシしたこと」  佐々木は顔を伏せ気味にして、口をひきしめた。 「別に。なんとなく理由は察してたから」 「だから、そういうところがムカツク」  眉をつり上げた佐々木は、御剣の袖を放して表情を改めた。そして改めて頭を下げる。 「ごめん、蓮。これから、またよろしく」 「うん」  二人は笑顔になった。奈月までつられそうになる、穏やかで優しい笑顔だった。 「和泉も、いままでごめんな」  佐々木に謝られて、奈月はびっくりする。ふるふると首を横に振った。 (謝ってくれた)  奈月の胸が温かくなった。 「じゃあ明日、学校でな」  二人は軽く手を振って別れた。奈月も佐々木に頭を下げて、御剣の後に続いて部屋を出る。 (御剣くんと佐々木くんが仲良くなったし、御剣くんが登校することになったし、来てよかった!)  御剣が男子グループを見ているのを、輪がうらやましいからだ奈月は思っていた。しかし、もしかしたら、佐々木を心配して見ていたのかもしれない。カンペキな優等生を演じている佐々木を危なっかしく思って。  もしくは、佐々木に声をかけられるのを待っていたのかもしれない。だから、ずっと一人でいたのかもしれない。 (仲が悪いと思っていた御剣くんと佐々木くんが友達だったなんて、ぜんぜんわからなかったよ。でも、心の中なんてわからないもんね)  クラスの中心で笑っている佐々木が、あんなに思い詰めているなんて思わなかった。  気持ちは見えない。だから言葉で伝える必要があるのだ。 (わたしも、つらいとか、さみしいとか、仲間に入れてほしいとか、ちゃんと口に出して言わなきゃいけなかったんだ。みんなだって、わたしの心の中が見えるわけじゃないもんね)  御剣に、緊張することも、上手く話せないことも、直せると聞いた。奈月は友達が欲しいと思いながらも、努力をしてこなかった。努力の仕方もわからなかった。しかし、やれることはたくさんあったのだ。 「和泉」  御剣に呼びかけられて、奈月は我に返った。 「貴秀の家に行ったら、ペットと会話してるところを見せてくれるんだろ」 「あっ、そうだったね」  二人は道の端に寄ると、奈月はスポーツバッグを開け、ポメラニアンを抱き上げた。 「コタロウ、御剣くんにあいさつは?」  コタロウはくるりと首を回して御剣を見上げると、つぶらな瞳をとがらせて、鼻にしわを寄せて歯をむき出した。 「あれはなんの茶番だ! おれは願いを見つけてこいと言ったんだ!」  コタロウは低い声で怒鳴った。 (わあっ、怒ってる!) 「おい奈月、願いを決めたんだろうな」  コタロウは歯をむき出しにしたまま、くるっと奈月に顔を向けた。 「それは、まだ……」 「佐々木ってヤツ、成績が上がらなくて困ってたじゃないか。おまえの命で、一番にしてやれ」 「やだよっ」  佐々木のことはかわいそうだと思ったが、それとこれとは話が別だ。 「犬が、しゃべってる……」  そのつぶやきに目を向けると、御剣がコタロウを見ながら固まっていた。 「ほらね。なんとかフレンドっていうのじゃなかったでしょ?」 (よかった。これで、妄想だとか、うそつきだと思われなくてすんだよ)
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