1 悪魔の呼び出し方

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(紙だ)  シートの間に指を入れて取り出すと、四つ折りになった黄ばんだ紙だった。 (なぜ、こんなところにあるんだろう?)  前に住んでいた住人が、わざと隠したのだろうか。  押し入れの中は暗いので、はい出してからA四の紙を開くと、こう書かれていた。  ――悪魔が願いを一つ叶えます。代償は、命です。 「願いを、叶える?」  奈月はドキリとする。  手書きの赤黒い文字が、なんだか生きているように揺れて見えた。それに、ただの紙のはずなのに、なんだか生温かい気もする。 「悪魔の呼び出し方」  用意するもの:姿見二つ、あなたの命。  日時:満月が見える深夜二時。  手順:深夜二時ちょうどに、向かい合わせに設置した姿見で、月光を互いに反射させるようにします。すると、鏡と鏡の間に満月の光が集まって、悪魔が召喚されます。あとは願いを悪魔に伝えるだけ。あなたは魂を差し出して、願いは叶えられます。  じゃれてくるコタロウにも気づかないくらい、奈月は食い入るように紙を見つめた。  願いが叶う。でもその代わりに、魂を差し出す。 「それって、願った人が死んじゃうってことだよね」  お金持ちになっても、世界一の美人になっても、友達ができたとしても、死んでしまっては意味がない。  普通なら、まったく価値がないと考えるだろう。むしろ不気味だと腹を立てて、この紙を破り捨てるかもしれない。  しかし、奈月は違った。 (すごい。まるで、わたしのためにあるルールみたい)  どんな願いも叶うなら、自分では助けられなかった御剣を救ってもらえる。 (いじめをなくして、御剣くんがまた学校に通えるように頼もう)  この願いが叶ったら、奈月は死んでしまうはずだ。 (お父さんとお母さんのために、わたしはいなくなった方がいいんだ)  それは、ずっと奈月が思ってきたことだ。  前の学校ではいじめがつらくて、死んでしまいたいと思ったこともあった。  しかし、怖くてできなかった。 (魂を抜かれるって、どんな感じだろう。痛くないといいな)  前に住んでいた人が、いたずらで紙を残していっただけかもしれない。だが、試してみる価値はあるだろう。  それから奈月はスマートフォンで、満月になる日を調べることにした。姿見というのが、全身を映す大きな鏡だということも調べて準備をした。  ここ数年の中で、こんなに積極的に動いたことはなかったかもしれない。  奈月はまた、御剣の来ない学校に通いだした。 (御剣くん、待っててね。もう少しで元通りになるから)  そして迎えた、満月の夜。 「この犬、なんてことをしやがるんだ!」  ――コタロウが、低い声でしゃべるようになった。
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