2 願いを叶えていいのか問題

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「入れよ」  ドアを大きく開けて、御剣が部屋に招いてくれた。 「座るとこないから、立ち話になるけど」  そう言って、さっさと御剣は部屋の中に戻る。奈月も続いて部屋に入った。 (うわっ、図書館みたい)  部屋の入り口から、四つも本棚が並んでいた。そのほかに、壁際にも本棚がみっちりと並んでいる。二段ベッドの上側だけにベッドがあって、一階部分の空間にも、やっぱり本棚。十二畳ほどあるこの部屋には、何冊の本があるのだろう。  窓際には広いデスクがあり、そこにはパソコンと、モニターが三台も並んでいる。デスクは立っていないと届かないほど高い。 (なんか、わたしの部屋とぜんぜん違う) 「椅子がないんだね」 「なんでも立って作業するから。座るって非効率だろ。健康に悪いし」 (えっ、そうなの?)  確認したくても、御剣のほかには誰もいない。思わず奈月はスポーツバッグに目を落としたけれど、コタロウは奥にいるのか、チャックの隙間からは毛も見えない。 「学校に行かなくなったのは、和泉のせいじゃない。まあ、遠因ではあるけど」 (えんいんってなんだろう?)  奈月はパチパチとまばたきをした。 「佐々木や林たちにからまれるようになったといっても、ただ傍でわめいているだけだったから、どうということはなかった。発情期の猫並みにうるさかったけどな」 (御剣くんって、難しい言葉を使うな) 「じゃあ、どうして学校に来ないの?」 「行くのが面倒になったから。和泉が勘違いしたように、あの状況なら、いじめにあって学校に行かなくなったように見えるだろ。親を説得しやすかったし、学校側もいじめがあったなんて公にしたくないから、いろいろと融通をきかせてくれることになったんだ」  奈月には、御剣の話は半分もわからなかったが……。 「もともと、学校に行きたくなかった、ってこと?」  御剣はうなずいた。 「中学受験をするから、学校の授業は意味がない。それにオレ、塾で高校の勉強をしてるから、小学校がつまらないんだよ」 「えっ、もう中学校の勉強も終わっちゃってるの⁉」 「そう」 (頭がいいとは聞いていたけれど、すごすぎだよ! 勝手に同族とか思っててごめんなさい)  奈月は目を白黒させる。  そうだ。御剣のことは同族だと思っていた。それは読書仲間というだけではない。 「でも……学校には行こうよ」  御剣はデスクに寄りかかりながら奈月を見た。目が合ってしまって、奈月はあわてて視線を落とす。 「わたしも、あまり学校は好きじゃない。だけど、お父さんたちが、学校は授業だけじゃなくて、社会に出るための訓練なんだよって。友達を作ったり、友達と影響を受け合うことができる大切な場所なんだよって、言ってたから」  だから奈月はがんばって学校に通っていた。どうしても、クラスメイトのペースに合わせられなかったけれど。  しかし御剣は違う。頭がいいし、女子にも人気がある。本を閉じて、ちょっとクラスに目を向けるだけで、すぐに友達ができるはずなのだ。 「御剣くん、友達、ほしいでしょ」  男子たちのグループを見る、うらやましそうなまなざし。その瞳が自分と似ていると奈月は思っていた。 「別に、今はいらない」 「えっ」 「中学に行ってから、同レベルの友達を作るから」 (そうなの?)  奈月は困惑する。 「でも、まだ、何か月も先だよ」 「たった数か月なら、ますますいらない。自分のペースで自宅で勉強するほうがいい」 「それって本心? 強がりじゃなくて?」 「強がっているように見える?」 (……見えない)  奈月は真っ青になった。  そしてその場に、ペタリと座り込む。 「御剣くん、どうしよう……」 「おい、なんだよ突然」  泣き出しそうになっている奈月の前で、御剣がかがんだ。
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