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渦中
「――さん、島内さん」
自分の名前を呼ばれ、私は目を覚ました。
――あれ、私、いつの間に寝ちゃったんだろう?
重たい瞼を擦ろうとして、両手が後ろで縛られていることに気づいた。そして、ついさっき名前を呼んでくれたのは、私の隣に住む伊達さんだ。一ヶ月前、引っ越しの挨拶に行った時、にこやかな笑顔で旦那さんと対応してくれたことを覚えている。
伊達さんだけじゃない。他にも三人の女性が後ろ手に縛られていた。ぴっちりと閉められたカーテンの隙間から少し光が漏れている。今は昼間なのかもしれない。体を動かすたびにガサガサと鳴っているから、下にはビニールシートが敷かれているのかも。
――室内に、ビニールシート?
薄暗い部屋の中でよく目を凝らすと、端の方に私が愛用している十年物のスニーカーが見えた。他にも、ここにいる女性分の靴が置かれている。
伊達さんを含め四人の女性たちは子供の名前を呼んだり、泣いたり、蹲ったりしているみたい。
――私たち、監禁されている、よね?
事実を認識してしまってから、急に怖くなった。
確か、哲哉くんに聞いてたのは、人妻ばかりが行方不明になっているということ。私は独身なのに、どうして縛られているんだろう?
――それに、犯人は……。
考えていると、玄関の扉が開けられる音がした。少し古い扉は、閉めるまで少し時間がかかる。キィィっと鳴る音は、今は恐怖心が膨れ上がるばかり。
玄関から私たちがいる部屋までは近い。玄関を入ってすぐの台所を通過して、居間を通り……。
「目が覚めたみたいだな」
初めてあった時とは全く違う、にちゃっとした声は乱暴な口調になっている。
私たちを監禁した犯人が、ゆっくりと近づいてきた。体を横にしていた私の顎を強引に掴まれる。その瞬間、ぞわっと寒気がした。
――助けて、哲哉くん!!
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