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2章
一方、神室将隆は会社での会議を終え、喫茶店メネシスで幼馴染の一ノ瀬麗奈と待ち合わせをしていた。神室が先にメネシスに着き、店の一番奥の二人掛けテーブルに行き、腰を下すと何時もの様に珈琲のモカを二つ注文する。マスターの木崎とは旧知の中で神室は重要な話をする時は、決まってここを使っていた。
――――何故、早まった事を……。――上手く手を回していたのに。
――――これじゃ、何も役にたてない。
等と思いを巡らせ将隆が珈琲を口に運んでいると、漸く麗奈が慌てた様子で現れ将隆の下に駆け寄り席に着き話し掛ける。将隆が珈琲カップを皿に置き、かちゃりと音が響く。奥からはFLY ME TO THE MOONが流れる。
そして、麗奈からフラグランスのかぐわしい香りが漂う。その麗奈をダウンライトの明かりが照らし白い肌をより際立たせていた。
「遅くなりました。待たせてすみません」
麗奈が申し訳なさそうな表情をして手を合わせて将隆の様子を窺う。
「いや、ちょっと前に来たばかりだから」
手を左右に振り大丈夫だよって表情をしながら笑みを零す将隆。
「それならば良いのですが……」
少し困り顔の麗奈。
「それより、どうして一臣さんと婚約破棄して別れちゃったの」
将隆が語気を強め真顔で詰め寄る。暫し沈黙の後、麗奈が目を伏し目がちにし瞳を潤ませ、声を震わせて答える。
「――だって、私穢れちゃったじゃないですか。それに、一臣に隠し続けるのが辛くて」
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