119人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ
――――というか、なんで出向なんかしてるんだ。必要ないだろ。
将隆から手渡された名刺には神室エレクトロニクス 専務取締役 神室将隆と記されており、一臣を納得させるのには充分すぎた内容だった。
「――そういう事か。だから……」
「そういう事だったんですよ。近衛さんが混乱する様な事してしまって済まないと思ってます。僕としましてはまさか麗奈が婚約破棄するとは思ってなくて」
事実を知った一臣は状況を把握し納得したが、それとは逆に気持ちの方は知り過ぎたがゆえに混乱し整理できずにいた。その、一臣を見て気遣いつつ話を続ける将隆。
「それで、麗奈の件なんだけど麗奈はまだ近衛さんの事と愛してるから、近衛さんが良ければだけどやり直したいと思っているんだけど、一度逢って話しては貰えないかな」
――――麗奈が居れとやり直したいと思ってる。――本当に麗奈とやり直せるのか。
――――俺は麗奈が犯された事実を受け入れて尚変わらずにいられるだろうか。
俺は頭の中にある疑問符を堂々巡りさせてはそれをくり返し答えを出せずにいた。そのため、直ぐには言葉を返せずに沈黙していた。そんな自分を情けなく思ったが、それがその時の自分が出来る精一杯だった。それを知ってか、課長は黙って俺の返答を待っていた。その中で自問自答をくり返し続ける。
――――やり直したくはないのか。――やり直したい。
――――事実は受け入れられる。――それは正直解らない。
――――でも……。――逢いたい。
俺は答えこそ出なかったが、もう一度麗奈に逢って話がしたい。そう思い課長に言葉を返した。
「話だけなら、僕もしたいと思っていたんで逢いたいです」
最初のコメントを投稿しよう!