120人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ
俺は愛想笑いを浮かべながらそう嘘をついていた。見え透いた嘘を……。
「ほんとに。それなら嬉しいな」
私はそう答えながら、一臣の優しい嘘に気付いていているのに気付かぬ振りをしていた。一臣は多分悩んでるんだと思う。本当なら別れて一臣を解き放った方が良いんだろうけど、私は一臣を切ないほど愛しているからそれが出来ずにいた。一緒にいれるならなんだってできる。たとえ……。
「ほんとだよ」
一臣がそう答えると麗奈は一臣の左手を握る。一臣はそれを握り返した。
「なんかいいね。こういうのも」
「ああ、たまには悪くないだろ」
「ここに来るのも久し振りだもんね」
「あれ、そうだっけ。去年来てなかったっけ」
「去年じゃないよ。おととしだよ。他の誰かと勘違いしてるんじゃないの」
「おいおい、他の誰かって誰よ。麗奈しかいないだろ」
――――本当に幸せだな。
――――この幸せを逃さない為には……。
「ふふふ、そうだね。ちょっとからかってみただけ」
私は答えながら覚悟を決めていた。
最初のコメントを投稿しよう!