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俺はそう答えながら、この娘の天然さというか、おおらかさに癒され惹かれていたように思う。だが、それは断じて恋では無かったように思う。例えるなら愛くるしいコーギーの仔犬を愛でるのに似たものだったと記憶している。
「気を付けて下さいよぉ。諭吉さんに叱られますからねっ」
僕はそう返しながら、このちょっと強面で優しいこの男性と話すのがとても楽しかったように思う。この時の彼氏は忙しさからなのか、僕に冷たかったから余計そう感じたんだと思う。だから……。
「それ、違います。笑う門には福来るです」
「知ってますよぉ。あっ、まさか本気で福沢諭吉って思ってたと勘違いしたんじゃ」
いたずらな笑みをうかべる七瀬。
「あっ、いや。冗談だって気づいてました」
眉間に皺をよせ言葉を返す一臣。
「気付いてませんでしたっ」
「いや、気付いてた」
「気付いてませんでしたよぉー」
「気付いんっ……」
一臣が言いかえそうとしたその時、七瀬の唇が触れた。驚き目を見開く一臣。七瀬は我に返ったのか直ぐに一臣から唇を離す。
「あっ、ごめん。ぶつかっちゃったぁ」
――――えっ、うそ。どうして僕……。
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