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そう言いながら唇を噛み締める一臣。
「じゃあ、どういう話なの」
「ごめん。俺が悪いんだ。――今はそれしか言えない」
「それじゃ納得できないよ。私に解るように説明してよ」
一臣にしがみつき必死に尋ねる麗奈。
「ごめん。時間が欲しい」
一臣はそう言うと麗奈を振りほどいて帰宅してしまった。麗奈はそれを呆然と見送り一臣がいなくなると泣き崩れていた。
――――これで本当におしまいだわ。
――――こうなって一臣を傷つけるくらいなら一臣とやり直すんじゃなかった。
この時私は覚悟していた。もう一臣とは終わりだという事を。もし、あの時一臣を拒絶しなければ上手く行ったのだろうか。それは解らないけど、きっともう駄目。
一方、一臣は車に乗り込みハンドルに伏せると声を殺して泣いていた。
――――もう終わりだ。こうなるとは……。
――――また麗奈を傷つけてしまったのか。
この時、俺は再確認していた。如何に自分が器の小さい男かと。そして、確信していた。麗奈が一瞬拒絶した時、ほっとした自分がいた事に。それに苛立ちを覚えたが、本能的にやり直すのはもう無理なんだという事を。どんなに麗奈が苦しみ悲しんでいるかと思うと心苦しいが本能的に無理なのだ。これは変えようがない。もう、ごまかしは効かない。麗奈にはきちんと説明しなければ……。
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