408人が本棚に入れています
本棚に追加
それからすぐに真昼は車を手配してくれて、三日後にはアンナ園への訪問が実現した。
園までは車で一時間ほど。
雪がちらついていたけれど、幸いにも積雪には至らなかった。
ふわりと風に舞う雪が車窓に映るのを、ぼんやりと眺める。
真昼の運転で遠くに出かけるのは新鮮で、不思議な感覚だった。
ラジオから流れるジャズを聴きながら、日に日に傷が癒えていることを漠然と思った。
もう航平の夢もほとんど見なていない。
あんなに愛していたのに。
あんなにかけがえのない存在だったのに。
雨が雪に変わるように移ろっていく心に落胆して、情けなく思う気持ちと、そんな浅はかさに安堵している自分もいる。
このまま雪が溶け、温かな陽光に照らされる季節には、きっと心から笑える日が来るはずだ。
もう二度と会えなくても、いつまでも航平の幸せを願う気持ちは変わらない。
「紗莉、この曲知ってる?」
まるで子供の遠足のように、真昼が笑う。
私がどこまでも穏やかで優しい気持ちになれるのも、全部彼のおかげだ。
「知らない」
「マジで? ちょっとくらいジャズも嗜みなよ。まあ俺も知らないけど」
「知らないんじゃん」
春になったらきっと、自分の足で立ち、自分の表情で笑える。
そして、真昼の歌を歌うんだ。
その為にも、彼のことをもっと知りたい。
ラジオに合わせてめちゃくちゃな鼻歌を歌う真昼がおかしくて、口元を小さく緩めた。
最初のコメントを投稿しよう!