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透子さん達のご厚意に甘えて、夕食のシチューをいただいた後は、教会で夜の礼拝に参加させてもらうことに。
教会の中はクリスマスの飾りが施されていて、子供達にプレゼントを用意しておけば良かったと後悔する。
だけどもう一度クリスマスの日に、真昼と共にたくさんのプレゼントを抱えてこの場所に帰りたいと密かに思った。
「お姉ちゃんお姫様みたい」
さっき一緒に絵を描いた、お茶も夕食の時も隣に座ってくれた夢ちゃんが、私のワンピースの裾を引っ張り言った。
そんなふうに目を輝かせて笑う夢ちゃんの方が、よっぽど可愛らしいお姫様だ。
くるくるにカールした柔らかい髪がとても似合っている。
「そうだよ。紗莉は俺のお姫様」
夢ちゃんに向かってどこか誇らしげに笑う真昼にムッとする。
彼に『お姫様』と呼ばれるのは好きではなかった。
なんだか、とても脆いものと見なされている気がして。
「私はお姫様なんかじゃない」
真昼を真っ直ぐに見つめ答えた。
「私は歌手」
そう胸を張って言えるのは、彼のおかげだ。
私は変わった。
もう、守られている存在じゃない。
「そうだな。紗莉は歌手だ」
真昼はニカッと笑う。
「お姉ちゃん、歌って」
夢ちゃんのリクエストに、思わず言葉に詰まる。
周りの子供達も「歌って」と騒ぎだし、引っ込みがつかなくなってしまった。
「歌ってあげなよ。紗莉。皆へ歌のプレゼントだ」
真昼にそう言われ、ごくりと固唾を飲んだ。
プレゼントだなんて。
私の歌で、この子達を喜ばせることができるだろうか。
私がここでもらったように、彼女達の心に温かい光を灯せるだろうか。
大切な場所に連れて来てくれた、真昼に何か返せるだろうか。
すっと大きく息を吸い、目を瞑った。
頭の中で響くメロディー。
真昼が私の為に作ってくれた曲。
私の背中を押してくれる応援歌。
自分の言葉で歌いたいと願った歌だ。
今やっと、歌詞が思い浮かんだ。
「前に進まなきゃ」
前に進まなきゃ
全ては形を変え巡りゆく
乾杯しようこの夜に
私達の勇気を称えよう
この瞬間を抱き締められる日が来るまで
私は振り返らない
生まれ変わる今夜
きっと私達の栄光の夜だから
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