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航平をリビングへ招き入れ、ダイニングに座り三人で向かい合う。
航平は覚悟を決めたように、淡々と語り始めた。
二年前、私と契約を結ぶ時スランプに陥っていたこと。
たまたま事務所に届いていた音楽ファイルに収められていたDaydreamがあまりにも素晴らしく、自分の作曲と偽り私に提供したこと。
その後はずっと罪悪感から目を逸らし続けていたことを。
「きっとなかなか記憶を取り戻さなかったのは、このことを思い出したくなかったからだ」
初めて知る残酷な真実を、容易には受け入れられない。
「他の曲も全て外注した作品だ。……最初から、俺に才能なんてなかったんだよ」
悲しげに私を見つめ自嘲する航平に、言葉が出なかった。
私の為に作ってくれた歌は、航平のものじゃなかったの?
全部嘘だったの?
私が憧れていた才能は。
私達の出会いは。
「申し訳ない」
航平は真昼に向かって深々と頭を下げた。
真昼はそれを、尚も冷めた目で見下ろしている。
「騙してすまない」
私にも謝罪する航平。
今はまだ、笑顔で頷くことなんてできない。
「だけど、どうしても君の傍にいたかったんだ。君の才能に心を奪われたあの日から、ずっと愛していた。今も気持ちは変わらない」
「航平……」
ずっと彼の口から聞きたかった言葉なのに。
今はもう、胸を締めつけるだけのものになってしまった。
「何度も君に打ち明けようとした。でも怖かったんだ。才能のない俺を、愛してくれるのか。何も手にしていない俺のことを」
「違う」
ゆっくりと口を開いた。
「私は航平の才能を愛していたんじゃない」
優しい眼差しや、包み込むような温かな心が好きだったの。
本当に愛していた。
確かにキッカケはDaydreamだったけれど、それ以上に、傍にいてホッとするような人柄が好きだったから。
だけど。
真昼は何も言わない。
何も言ってくれなかった。
「俺とやり直してほしい」
航平の真っ直ぐな瞳を、逸らすことはできなかった。
「今でも君を愛してる」
再び差し出されるリングが悪戯に煌めいた。
幸せだった頃の二人の思い出が、止めどなく溢れていく。
私のことを、自分を身代わりにしてまで守ってくれた、優しい彼との思い出が。
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