7. 特別な気持ち

8/12
491人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
 彩世はそのまま那月の体をぎゅっと抱き締めた。完全に体を預けている状態になった那月は、身動きが取れないまま胸に顔を埋める。 「…っせ、先輩、」 「俺、ずるいんだよ」 「…へ」 「正直、自信が少しも無かった訳じゃない。でも好かれてるかもって自信と、男同士だし断られるかもって不安が半々で…。やっぱり返事を聞くってなったらすごい緊張してて…」 一一一先輩の胸、シャツ越しにすごいドクドクいってる…。それに体が熱くて、この匂い…。出会った時にカーディガンをかけてくれた時と同じ。安心するいい匂いだ…。 「…っでも、あの子の告白を見守ってたのも、多少期待してたからだと思う。ナツくんは俺を選んでくれるかなって…。だからすごくずるいし、嫌な奴だよね」 「…っそんなこと!」 「ナツくんのことになると…俺、優しくて良い奴だけではいられないかも。少しのことで一喜一憂するし、俺のものにしたいってずるくもなっちゃう」 「…先輩、」  腕の力強さを感じて、彩世も緊張しているんだろうということが伝わってくる。那月は涙を拭い、体は抱き締められたままゆっくり顔を上げた。 「…え、あ、あの。さっき僕の気持ちも聞いて…?」 「あ…、えっと、うん…」 「!!えええっ、いや、直接言うつもりだったんです!返事する時にちゃんと言おうって…!」 一一一あんな熱弁聞かれてたなんて恥ずかしすぎる!!なんで人に話してるの聞かれる方が、こんなに恥ずかしいんだ!! 「うん。だから…今聞かせて?返事」 「…っあ」 「このまま聞きたい」  すぐ近くに、目の前に彩世の顔がある。優しく微笑みかけてくるその表情は今までで1番かもしれない。 一一一いや、前言撤回。こっちの方が何倍も恥ずかしいかも…。 「……あ、あの。ぼ、僕」 「うん」 「…~~~っい、彩世先輩のこと!!」 「うん」 「す、す、好きです!!僕も好きです!」  那月は顔を真っ赤にして目を潤ませながら大きな声を出した。 「…うん、ありがとう。じゃあ、俺と付き合ってくれる?」 「!!はっ、は、は、はい…!よろしくお願いします!!」 「…っはぁーーー、よかったぁ!」 一一一言えた…言えたんだ。先輩に好きって言えた!!付き合うって…僕と先輩は、今から恋人になったってこと…だよね。先輩と…両思いになれたんだ…!  それでも、嬉しそうに微笑み合う2人。那月にとっては人生で初めての告白で、「好き」と伝えるだけでも緊張は計り知れない。  また力が入らない足をカクカクと震わせて、彩世の体にもたれるように捕まった。 「だ、大丈夫?足震えてるよ」 「すいません…、緊張が解けて…足に力が…」 「ああ、そっか…。じゃあ俺にそのまま捕まって」 「………へ?えっ!!?うわぁあ!?」  彩世は少し体勢を変えて、那月の体をお姫様抱っこで軽々と抱き上げた。突然宙に浮いた那月は訳が分からず、必死に彩世にしがみつく。 「えええっ、あ、あの!!先輩、僕重いから…!」 「重くないよ。軽すぎ」 「ひぃぃ!!あの、ど、どこに!!?」 「んー、ナツくんが落ち着くまで2人きりになれる所行こうと思って。そんな状態でみんなの目につく所戻せないし」 「ぅえええ!?」  2人がやって来たのは、いつも昼に会っている中庭。グラウンドの近くでもあって、太鼓や笛の音、生徒達の声は微かに聞こえてくる。  那月をベンチに降ろし、彩世はその隣に腰掛けた。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!