幼き思い出

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 生まれた妹が、わたしより体が弱く病院にかかりきりで、苦しい日々が続いていた。 「ごめんね。かなた」  わたしの丸刈りの髪を母は優しく撫でてくれた。本当は可愛らしい服を着て、スポーツシューズじゃなくて、可愛いパンプスが履きたい。パンツじゃなくて、スカートがいい。 「おとうさんのためだもん」  昭和後期から平成初期は、男社会の時代で父の言うことは絶対だった。 「ねね」  妹の佳苗が小さな手のひらを伸ばしてくる。3歳になったばかりの佳苗は、小児科医の定期検診を受けに来ている。言葉覚えが遅いと心配した母が連れてきたのだ。  わたしは6歳になっていて、来春から小学校へと入学が決まっていた。この時ばかりは赤いランドセルを買ってもらいウキウキしていた。見た目が男の子なだけで、可愛いもの好きな女の子へと成長していく。 「佐藤さん、佐藤佳苗さーん」  小さな手を放して、わたしは1人待合室で待つと決めた。父は佳苗が生まれたからといって家族に当たる人ではない。  わたしさえ我慢できたらいい話。幼心にそう言い続けていた。そんな時・・・ 「かなたって言うのね。いい名前やわ。こんな子があたしたちの子になってくれたら嬉しいのに・・・」  母との会話で名前を知ったんだ。産科と小児科医は同じ通路で繋がっている。見知らぬ若い女性と、その夫らしき人は、顔を見合せ笑っていた。それが何より怖かった。  1人で、待てるもん  わたしは数分前のわたしを恨んだ。
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