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和解
わたしは百田家の養女となり、なに不自由なく暮らして、実子である百田元気さんと結婚した。
「妹さんの佳苗さんは助かったの?」
「うん。今は健康そのもの」
佳苗とは文通を交わし、家のことそして心身の状態のことを聞いていた。父は泣きながら侘びているらしい。
すまない、すまない
揺らぐ字を見てもなんとも思わなくなっていたのは、養子先での暮らしが穏やかだったからだ。
「元気さん、ありがとう」
6歳の頃の苦い思い出は途切れ途切れになっている。お父さんに好かれよう、男の子であろうと頑張りすぎたわたしに会えるなら、言いたいことがある。
****
ガラガラ・・・
30年ぶりに訪れた実家。片杖をついた父が足早に近づいてくる。父の肩を支えながら隣にいる母も歩いてきて。
「かなた、ごめん」
「ごめんなさい」
妹のため、そして経済的な面で苦しかったのは知っている。みんなの幸せを考えれば、その選択肢を選ぶ両親の気持ちが今なら少しわかる。
「ただいま」
両親は顔を見合せ微笑む。1番聞きたい言葉をやっと聞けた。
「おかえりなさい」
「かなた、おかえり」
義理の息子になる元気くんが父の話し相手になってくれている。そして、大きなお腹を擦りながら、軋む廊下を進む。
先に歩く父と元気くんの背中を見ながら、横を歩く母に話す。
「わたしも、お母さんの真似してみた」
出産まで男の子か女の子かわからない。
けれど、もうあの頃とは違う時代。
今、母に言える感謝の言葉は
「佳苗をわたしを護ってくれてありがとう」
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