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「そんな……あたくしは当たり前のことをしたまで。今までリエルを支えてきたつもりでしたけど、彼女の悪事を見抜けなかったあたくしの責任でもありますわ」
「ノエラ、君こそが王太子妃にふさわしい」
お互いに見つめ合うアランとノエラ。
これまでリエルは想像もしていなかった。
自分の夫と親友が、深い仲であったことを。
(これは何の茶番? 私が一体何をしたというの?)
リエルはふたりに何も発言することもできず、そのまま意識が薄れていく。
目の前の光景が歪んでいき、やがて真っ白の世界が広がった。
何もなかった。
先ほどまでの痛みも感じなかった。
不快な思いも薄れていく。
これが死というものなのかと、リエルは不思議な感覚に囚われていた。
「リエル、リエル……」
遠くでよく知った女性の声がした。
なつかしくて、その声を聞くだけで涙が出そうになる。
「お母さま?」
リエルが10歳のときには母は病気で亡くなった。
母との思い出は数少ない。
母は絵本を読んでくれたり、一緒に庭を散歩したり、眠れないときは一緒に寝てくれた。
わずかな思い出。だからこそ、あまりに貴重でリエルの記憶には深く刻まれてる。
母が亡くなった日、リエルは彼女のベッドで大泣きした。
(迎えに来てくれたのね)
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