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母と一緒なら今までの苦しみも悲しみも、すべて忘れられる。
リエルは微笑んで母に手を伸ばした。
しかし、母はリエルの手を拒絶した。
「戻りなさい、リエル。あなたの人生はまだ終わっていないわ」
「え?」
「後悔のないように」
それだけ言って、母はふたたびリエルの目の前から姿を消した。
「お母さまああぁっ!」
手を伸ばして叫んでみたが、目の前にはただ真っ白な空間があるだけだった。
ふたたび意識を失って目が覚めたとき、リエルはベッドの中にいた。
ゆっくり視線を周囲に向けてみるとよく知った光景が広がっていた。
しかし、それが不自然に感じられる。
なぜなら、ここが結婚前の自分の部屋だったからだ。
リエルはハッとして身体を起こし、自分の胸に手を当てた。
「……私、刺されたはずなのに」
ずきりと胸が痛む。
記憶を辿るとあまりに鮮明に思い出す。
自分の胸に剣を突きつけたのは愛していた夫のアランだった。
窓へ目をやるとカーテン越しに光が差していた。
「私……生きてる」
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