2、気づいたら1年前だった

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 カーレン侯爵家の応接室で、バシンッと派手な音が響いた。  父がリエルの頬をぶったのだ。  使用人たちはその光景を眺めて複雑な表情で黙っている。  父は激怒した様子でリエルに怒鳴りつけた。 「アラン王太子殿下の縁談を断るだと? そんなわがままは許さん!」  リエルは父から目をそらし、頬に手を添えてじっとしている。  予想通りだったのでたいして驚いてはいない。  「お前の縁談に侯爵家の命運がかかっているんだ。王太子妃になるための教育まで受けさせたのに、今さら呆けたことを言うんじゃない!」  父があまりに声を荒らげるので、継母が横から口を挟んだ。 「まあ、あなた。落ち着いてくださいませ。少し臆病になっているだけですわ。嫁入り前の娘にはよくあることですもの」  継母がリエルの顔を覗き込む。  そして彼女は不気味な笑みを浮かべた。 「ねえ、リエル。この家はあたくしの息子、あなたの弟が継ぐの。あなたは王宮へ嫁いでこの家と王宮との橋渡し役をすると決まっているでしょう?」  リエルが継母を睨みつけると、彼女は苛立った様子で手を振り上げた。
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