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ふたたび訪れた王宮。
回帰前はきらびやかな宮殿を見ると気絶しそうなほど緊張した。何度か訪れたことはあったが、暮らすとなれば別物だ。
必死に王宮のことを覚えたあの頃がなつかしい。
けれども今は、死ぬ前の悲惨な思い出ばかりが強烈に残っている。
王宮の家臣と使用人たちに案内されながら回廊を歩いていた。
エマは初めてということもありそわそわしているが、リエルはいたって冷静だ。見慣れた宮殿内のどこに何があるのかほとんど記憶している。
ふと、前方から衛兵たちに囲まれたアランが厳かな様子で歩いてきた。
リエルはどきりとして身構える。
アランはリエルの前で足を止め、話しかけた。
「君が俺の妻となるリエルか?」
リエルは落ち着いた表情で挨拶をおこなう。
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。カーレン侯爵家のリエルでございます」
ゆっくりと顔を上げるとそこには見慣れた夫の姿。
穏やかで善人の顔をしている。
(その顔に騙されたわ)
憤怒に満ちた表情で罵倒し、何度もリエルの腹を蹴りつけたアラン。
最後にはリエルの胸を貫いて殺した。
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