5、王太子の偽善

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 その頃リエルの部屋では使用人がひとり雑巾とバケツを持ってこっそり入室した。  彼女はキョロキョロと辺りを見まわし、誰もいないことを確認。  雑巾とバケツを床に放置して、鏡台(ドレッサー)の引き出しにある宝石箱を取り出した。  使用人はにやりと笑みを浮かべて、箱から指輪とネックレスを取り出し、こっそりと自分のポケットに入れた。  そして、他にも金目の物がないか探してまわった。  *  一方、リエルは王宮庭園でエマと散歩をしていた。  青空の下、美しい花が咲き、風も心地いい。  しかし上機嫌のエマとは対照的にリエルは神妙な面持ちをしていた。  しばらく歩いたあと、リエルは突如立ち止まった。 「エマ、部屋へ戻るわ」 「え? 今来たばかりですよ。もう少しゆっくりなさっても……」 「少し気分が優れないの」 「大変! すぐに帰りましょう!」  エマはくるりと向きを変え、リエルの様子をうかがいながら来た道を戻る。  リエルは少し速足になった。 (一番最初に盗難騒ぎがあったのは今日だわ。だとしたら、そろそろ犯人は証拠を持ったまま私の部屋へいるはず)
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