5、王太子の偽善

5/17

1618人が本棚に入れています
本棚に追加
/396ページ
 ――――  ―――――――  よみがえるおぞましい記憶。  それはノエラがリエルを非難する声だ。 「リエル? あなた、なんてことを……」  ノエラはこちらを見て震えている。まるで恐ろしいものを見ているかのような姿だ。  そして、リエルが抱きかかえているのは血まみれのユリウスである。  リエルはとっさに主張する。 「違うわ、ノエラ。私は彼とお茶を飲んでいただけなの。急に彼がこんなことに……」 「リエル、言いわけは通用しないわ。だって、あなた同じお茶を飲んだのでしょう? どうしてあなたは何ともないの?」 「わからない。本当にわからないの。ノエラ、信じて!」  そんな中、アランも駆けつけ、この現状に驚愕した。 「ユリウス! なぜだ、どうして……」  駆け寄ってきたアランにリエルはおずおずと話しかける。 「殿下、私にも何が何だか……」  しかし混乱し狼狽するアランにリエルの声は聞こえなかった。 「リエル、なぜだ? ユリウスはお前のことを慕っていたんだぞ。それなのに、なぜ殺した?」 「違います、殿下! 私ではありません。決して私では……」 「お前じゃないなら使用人か? だが使用人が毒を盛ったというなら、なぜお前は同じ茶を飲んで平気なんだ?」 「ああ、殿下……信じてください……私ではありません……私では……」  リエルが泣きながら周囲を見わたすと、全員が疑いの目を向けていた。  中には「人殺し」と呟く者もいた。  ―――――――  ――――
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1618人が本棚に入れています
本棚に追加