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「……ねうえ、義姉上」
過去の記憶に囚われ、ぼんやりしていたリエルは、ユリウスの声で我に返った。
「え? ああ……これは、ユリウス王子殿下」
「どうぞユリウスとお呼びください」
ユリウスはにっこりと微笑んだ。
リエルは複雑な表情で笑みを浮かべる。
(ユリウス、当たり前だけど生きているわ)
悲惨な記憶がよみがえり、いまだ鼓動が落ち着かないが、とりあえず安堵する。
「お散歩中ですか? よろしければご一緒しませんか?」
「あ、えっと……」
すぐにでも戻らなければならない。
リエルがどう説明すべきか迷っていると、代わりにエマが答えてくれた。
「申しわけございません。リエルさまは体調が優れないようでして……」
「え? それは大変だ。部屋までお送りしますよ」
突然の申し出にリエルはすぐさま断る。
「ユリウス殿下のお手を煩わせるわけには……」
「こちらには護衛騎士がおりますから、ご安心ください」
にっこりと笑ってそう言ってくれるユリウスに、リエルは複雑な心境を抱いた。
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