5、王太子の偽善

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 アランは極上の笑みを浮かべながら使用人に手を差し伸べた。  その態度にリエルは呆れて軽蔑の眼差しを向ける。  そんなことに気づくこともなく、アランは使用人に優しく声をかける。 「給金については侍女長に伝えておこう。もう二度と盗みを働かないと誓えるね?」 「はい、殿下。この御恩は一生忘れません。精一杯殿下のために働きます」 「ああ、そうしてくれ。これからもしっかり俺たちを支えてほしい」 「もちろんでございます!」  ふたりのやりとりを感動しながら見つめる周囲に対し、リエルはただ冷めた目を向けている。  このまま野放しにすると厄介だ。  一応、アランに忠告しておくことにした。 「殿下。お言葉ですが、一度盗みを働いた者は二度も三度も繰り返します。解雇が妥当かと存じますが」  それを聞いた周囲が一斉にリエルを責めるような目で見つめた。  アランは眉をひそめ、リエルに険しい顔を向ける。 「君には人の情というものがないのか? まるで人形のように冷たい女だな」
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