5、王太子の偽善

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 回帰前を思い出すと嫌な記憶しかない。  特にアランは口先だけでいいことを言っておきながら行動しないのだ。    のちに来る嵐のせいで食糧不足に陥ったときも、リエルは王太子妃として町へ出て人々のために動いたが、アランは視察に行くどころか愛人と過ごしていた。  テーブルにご馳走を並べて、ほとんど口をつけず、アランに出された食事はほぼ捨てられた。  それを見たリエルが町の様子を話して訴えるも、アランはリエルに任せると言って自分は愛人のところへ行ったのだ。 (化けの皮を剥がしたいけれど、今ではないわ)  リエルはひと呼吸置いて自分を落ち着かせると、穏やかな口調で了承した。 「わかりました。殿下のご命令に従います」 「やっとわかったか」  アランは安堵の表情でリエルを見下ろし、口もとに笑みを浮かべる。  リエルは呆れるしかなかった。  しかし、どうせすぐにアランの判断が間違いであると全員がわかる日が来る。  リエルは何も言わずに待つことにした。
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