34.それぞれの思い

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 涙を流さぬように歯を食いしばるセクトはただの子どもに見えた。 「セクトの気持ちは十二分に分かった」 「王族が使えるはずの治癒魔法が使えないせいで妾の子扱いをされる僕の気持ちなんて、兄様に分かるわけないだろ!」  叫んだセクトはついに大粒の涙を溢れさせた。 「僕だって、僕だって! 兄様みたいに、かっこよく、なれたらって……」  これはあれだ、攻略対象ってやつだ。  でなければキャラ盛りすぎだろう。  感動のシーンであるはずなのに、心はちっとも動かない。むしろ冷める一方だ。  なぜだか、あらかじめ決められた台詞を聞かされている感覚に陥ってしまう。 「私にしたことは犯罪だけどね。ヒルダの事もちゃんと聞いてない」  容赦なく言葉を突きつければ、泣き止んだセクトがゆっくりと喋りだす。 「……ヒルダの家がしている奴隷売買、違法薬物売買を黙っている代わりに従ってもらったんだよ。お義姉さん」 「そう。ヒルダはアーマルド国の男爵家なのに、よくそんな情報が手に入ったわね」 「この国で何故か流行りだした違法薬物の出どころを調べていたら辿り着いただけだ。特別な話じゃないだろ」  拗ねたように顔を背けられる。  その言葉に、ふっと笑みが溢れた。 「なんだ。ちゃんと王族してるじゃない」
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