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気が付いたからと言って、事を起こした事実は消えてはくれない。
しかし、ヒルダの弱みを握り操り私を拐う緻密さと、グレンが国境で敵国が侵攻してきていないと気がつくほどのずさんさが合わさった計画は、彼が一人で起こしたとも考えにくい。
国境付近で上げられた信号弾。
それを上げられるのは、ただ一人。
「……辺境伯」
ぽつりと口から出た言葉にセクトが反応した。
「そうです。言い訳がましいかも知れないけど、辺境伯に話を持ちかけられ、乗ってしまいました」
「傀儡にしようとしたんだろうな。セクトなら御しやすいと判断された。ようは舐められていたんだ。俺も、お前も」
「っ、僕はっ……!」
「殺意は秘めて、研ぎ澄ますものだよ。誰にも気取られてはならない」
グレンは綺麗な笑顔とは裏腹に物騒な言葉を口にする。
気圧されたセクトが息を呑む。
「でもまぁ、国境付近に軍には待機命令を出しているし、いい機会かもな」
「え、まだ軍は国境付近にいるの? 帰還命令ではなく?」
「うん。そうだよ。だから辺境伯は俺とセクトはまだ戦っているとでも思っているんじゃないか? 俺を竜化させ王族の地位を剥奪する、だなんて言ってないだろ?」
「そりゃあ、建国神話はただのおとぎ話だと思われているから……。結局、兄様は竜にはならなかったけど……」
「俺がいつ、竜になれないって言った?」
一瞬の静寂。
そして、
「えぇぇぇえ!?」
絶叫が響いた。
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