科学者へ

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5 いつか  一夜明け、最低限の整備士と管理官が発射所に到着し、いつものようにスペースシャトルが発射される手はずが整えられていた。  追加の兵士はさすがに間に合わず、490日目のスペースシャトルに乗り込む兵士は、アル一人だった。  いつものように、シオンは見送りについた。 「いつ帰ってくるの」 「いつか、帰ってくるさ」 周りの大人に聞こえないように、耳元で二人は会話をする。  「シオンはずっとここにいるのか」 「…たぶんね」 「怖くないの」 アルは黙って首を振った。16歳の青年は、その感情を表現するすべを知らなかった。 「僕の研究が、人の役に立ってるって、戦争なんかしてないって、アルが証明して」 アルの返事はなかった。  スペースシャトルの胴体と発射所をつなぐ真っ白な階段を、アルはひとつづつのぼっていった。  「また、いつか」 シオンとアルが最後に目を合わせて、そう伝えあった。  スペースシャトルのオレンジ色の炎が、まだかまだかというように激しく燃え上がっている。空は相変わらず青かった。  窓際に座ったアルは、オリオン座を超硬質ガラスに描いた。シオンは虚空でそれをなぞる。    その夜、またA国に流れ星が降った。  科学者は彼を待ち続ける。 6 追憶   祖父の記憶バイタリーは、によると、A国は資金不足により、宇宙での六国間戦争から第一に撤退した。A国に続き、ぞくぞくとB国、E国も撤退していく中で、全世界的停戦協定は結ばれた―という一文で終わっていた。  資金難が解消され、祖父シオンのような科学者が誕生すれば、A国はまた宇宙戦争を再開するのだろうか。 祖父の記憶バイタリーをコンピュータから抜き、私は政府から送られてきたメモリを新しく差し込んだ。 「N賞受賞のお知らせ」 ああ、やはり私は科学者シオンの孫なのだと思った。 私は科学者として、A国が再び宇宙に飛び立つための翼となる、宇宙と地球をつなぐ超軽量エレベーターを作っている。それは平和の象徴とされる鳩の翼か、それともイカロスの翼か。
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