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「沙都子! 持ってきたよ!」  由香に肩を叩かれ、私は振り返った。  由香は中学のときにできた、初めての女友達だ。三つ上のお姉さんがいる由香は、よくお下がりの少女漫画を貸してくれた。  でも、この日由香が持ってきたのは雑誌だった。私たちと同じ高校生のモデルが表紙のものだ。 「高校生になったし、ちょっとぐらいお化粧せんとね! 沙都子は髪は伸ばさんと?」  私は相変わらずベリーショートの髪にそっと触れる。 「うん。髪はこのままでよかと」    野球のユニフォームを着て、小学生のときの私の守備位置だったファーストを守る矢口。  高校生になって背の伸びた球児たちはユニフォームを着ると二割り増しでかっこいい。中でも矢口は別格だった。グラウンドで練習しているときの、近寄り難ささえ感じる真剣な矢口と、練習中以外の柔らかな笑顔の矢口。ギャップが矢口の最大の魅力だ。 「矢口、かっこよかよね。でも、みんなフラれとるげな。好きな人おるとかいな」  と由香が言った。  どきりとした。  矢口の好きな人。  考えたこともなかったけど、私が矢口を好きなように矢口に好きな人がいてもおかしくない。  矢口に私はどう映っとるっちゃろ。  矢口はだれを好きっちゃろ。  そして、私はいつになれば告白しようと思えるっちゃろ。  矢口に釣り合う日なんて永遠に来ない気がした。 『らしくねえ。悩んどるくらいならさっさと告れや』  中川の声が聞こえてきそうだ。  矢口を好きになるまで私は無敵だった。特別な人ができると嫌われるのがこんなに怖いなんて知らなかった。  腕相撲が純粋に楽しかった日々が懐かしく、少し羨ましい。 「沙都子さ、矢口のこと好きっちゃろー?」  唐突に由香に聞かれて、私は目を瞬かせた。 「え? な、なんで?」 「沙都子いつも目で追っとるもん。告白せんと?」 「私、変化が怖かけん、告白する勇気がなかとよ」  今の私の正直な気持ちだった。 「でも、そしたら矢口、だれかと付き合ってしまうかもしれんよ?」 「それでも断られて気まずくなるよりよか」  私は矢口と自分が付き合えるなんて思っていなかった。ただのクラスメイトでいい。  私は由香を見た。  由香は私と違ってふんわりした癖っ毛のボブがかわいい、女の子らしい容姿だ。そんな見かけなのに、度胸があって、姉御肌で、時々驚かされる。  由香なら。矢口の恋人が由香なら。  許せるっちゃろか?  矢口が由香と仲良くしているのを見るのは辛いだろうし、嫉妬もするだろう。  それでも由香なら。  本当にそう思えると? 「どうしたと?」 「なんでもなか」  私、こんな性格やった?  周りばかり気にして、人と比較して、卑屈になって。 『らしくねえ』   中川、私、なにか間違っとるとかな?      
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