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 大学生になって驚いた。  まさかの矢口と同じ大学。そして、同じサークル。  中高野球部だった矢口がテニスサークルって……。理由はわからない。でも。  由香が言ってたのを思い出した。 『沙都子、矢口好きになってから、ずっとクラス一緒っちゃろ? すごか確率ばい。ふたりは運命で結ばれてたり!』  運命って、本当にあるっちゃろか?  私はありえない偶然に、浮かれていた。   「明日の夜、新歓コンパだって。行く? 君も一年生だよね?」   テニスを終えて、私服に着替えた私に矢口が声をかけてきた。  私は目を見張る。  え? 私に言っとると? 「矢口? 私、河合やけど……」 「河合さん? えっと。俺のこと知ってるの? もしかして西高? ごめん、俺、名前と顔覚えるの苦手で。中高、野球ばかりしてたからさ」  私は笑い出しそうになるのを堪えた。  運命? ばかっちゃない? ただのクラスメイトでもなか。私、認識すらされてなかやん。 「そう。西高だったんよ、私も。あ、私、コンパ不参加で! じゃあ、急ぐけん、またね!」  泣くもんか!    私は早足で駅に向かいながら右手で頭をグシャリとかいた。  ベリーショートがなん? 私が覚えてただけで、矢口は言ったことすら忘れてるだろう。  矢口と同じサークルになったからとお化粧もいつもより気合を入れて、服だって昨晩何を着て行こうか悩みに悩んだ。私には似合ってないだろう清楚なワンピースを、今すぐにでも脱いで破ってしまいたくなった。  ダメだ。涙が溢れる……!    不意に肩を掴まれ、私はハッとして振り返った。 「おねーさん、泣いてるの? 慰めてあげよっか? 一緒飲みに行こう?」  すでに飲んでいるのか酒臭い男の息が顔にかかった。同じ大学生だろうか。   こんなときに限って。 「急いでるんでっ」  男の手を振り払おうとしたが、男は手を離してくれなかった。 「そんな怖がらないでよ。ね? 大丈夫だから」  こんなひょろっとした男の手なんてと思うのに、力が入らないどころか、膝が震えて歩くことさえできない。  私、こんなに弱かったん? だれか。助けて! 矢口! 「嫌がっとるやろ? 離せよ」    頭の上から降ってきた声に、私は安堵で力が抜けた。 「カッコつけてんなよ? お前だれだ?」 「こいつの連れですけど」  右耳に大きなピアスをした男が答えて、私の肩を掴んでいた男を私から引き剥がす。そして、私の腕を引いた。 「走るぞ」  ヒールがあるサンダルを選んだ自分が恨めしい。力が入らないのもあって足がもつれる。 「ったく。らしくねえカッコしてっからやろ?」 「ひゃっ!」  男は私を抱き上げ、お姫様抱っこをした。私は、 「や、やめて! こんなことせんでよ!」  と男の胸を叩いたが、男はびくともしない。 「調子でてきたやん。駅に着いたら離しちゃるよ」  私は抵抗を諦めて黙った。 「そうそう。大人しくしとけ、河合。らしくねえけど、それ、案外似合っとる。本当雰囲気変ったな、お前」  それを言うなら、お前こそ背伸び過ぎだろと心で呟く。同時に、雰囲気が変わった私をなんでこいつは見つけたっちゃろと思った。 「なんでこんなとこにおるん、中川?」 「同じ大学やけん」 「え? そうなん?」 「河合がおるか一か八かで受けた。結果オーライ」  駅に着いて、中川は私をゆっくりとおろした。  やっぱり背が高い。頭ひとつ分以上私より大きい。ピアスといい、ブルーの髪といい、一見不良っぽいのに、目が変わらず中川で、怖くない。 「馬鹿じゃ。なんでそげなこと」 「河合にもう一度会いたかったけん」  その言葉に私の心臓がとくんと跳ねた。 「私は、中川のことなんて」 「忘れてた?」  中川が拗ねたように言った。急に自分と中川が重なって、また涙が出てきた。   私、中川と同じやん。 「なんがあったと?」  中川は言いながら自販機で飲み物を購入する。 「ほれ、話してみ?」  私は中川から冷たいCCレモンを受け取ると、嗚咽を漏らしながら今までのことを話し始めた。    
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