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「まあ、河合、矢口好きになって変わったけんな。分からんやつには分からんやろ」
ひと通り話を聞いた中川はそう言った。
私は泣いて少しすっきりしていた。
「中川は分かったやんか」
「俺は分かる。河合がどんなふうに変わっても気付く」
自信満々に中川は言った。
心臓がまたとくんと鳴る。
「なんで?」
「お前、ニブ過ぎ。好きじゃなかったら、わざわざ福岡の大学受けるか」
「なんでよ。なんで私が好きなん? 私、中川に好かれることなんかなんもしてなか。さっきだって、助けてくれたの矢口やったらって……」
中川は私にデコピンをした。
「そんなん、分かっとるわ! そんだけ矢口を好きっちゃろーもん。好きに理由なんかあるん? 河合は矢口のどこを好きになったん? 答えられんやろ?」
「……うん」
「で? どーするん?」
「え?」
「まさかこのまま諦めるんか?」
私は中川の言っている意味がわからなかった。
なんで私のこと好きなのにそんなこと言うと?
「だって、認識すらされてないとよ?」
「それがどーしたよ。河合、ほんと」
「はいはい。らしくねえって言うっちゃろ? 私らしさなんて自分でも分からん。ただ、大学生活は楽しみたか」
「リベンジはせんでいいと?」
「そりゃ、悔しかとは思う。けど、中川の言う通り、少し窮屈やったかもしれん。こんなワンピなんか似合わんのに」
言ったらまた涙が出そうになって、私は頬をぐいと拭った。
「化粧落ちるぞ」
「別によか」
「ワンピ、似合うとる。脱ぐなら俺の部屋にせろよ」
「はあ〜?」
私はグーパンチを中川に放ったけれど、中川の大きな手に受け止められた。
なんだか泣きたいのか笑いたいのか。私は中川をしばらくばしばしと叩いた。中川は笑いながらそれを手で防いだ。
「送っちゃるよ」
「ありがと」
変な感じだった。
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