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テニスサークルは辞めていないし、矢口とは顔を合わせる。やっぱりかっこいいとは思う。なんせ八年の片想いだ。そう簡単に気持ちを失くすなんてできない。はずだった。
けれど、久しぶりに運動をすることになった私は、次第にテニスが楽しくなり、矢口よりもテニスボールを追うことに夢中になっていった。
中川とはよく晩ご飯を食べる。他愛もない話を延々として時間が来ると解散。それがとても心地よくて楽しい。中川は口は悪いけれど紳士的で、お酒が入っても私に手を出すなんてことはなかった。
「河合さんさ、青い髪の人、彼氏?」
矢口に突然聞かれて、私は驚いて否定した。
「中川って覚えてなか? 中学二年の夏まで一緒の学校だったっちゃけど」
矢口は聞き覚えがあるらしく、思い出すように上を見た。
「中川。ああ。彼、中川なの? ……あのさ、もし、違ってたらごめんね。河合さんて、小学生のとき、男子たちと腕相撲してた?」
「してたしてた」
矢口の顔に笑顔が広がった。この笑顔、好きだったっちゃんねと思う。
「雰囲気が違うからわからなかった。ごめん。河合さん、あのベリーショートの子だったんだね」
矢口は懐かしそうに私の顔を覗き込んだ。
「河合さん、野球も上手かったよね。ファースト、河合さんが守ってたから自分もしたくて。でもいつの間にか河合さん野球来なくなって」
驚きの事実だった。
私が野球を辞めた理由が矢口だって知ったら、矢口はどう思うだろ。
中川もびっくりだ。
「なにか変なこと言った?」
「え?」
「河合さん笑ってるから」
「ああ〜、なんか懐かしいけん?」
矢口はすっと真面目な顔になった。
「あのさ、河合さん。中川と付き合ってないならさ、俺と付き合わない? 河合さん、俺の初恋の人だったんだ」
え? なん?
矢口の口から出た言葉を私は一瞬理解できなかった。
『俺は分かる。河合がどんなふうに変わっても気付く』
中川の言葉が頭をよぎった。
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